赤間さんとか、ぼくとかに、お父さんがいないのはいいことに違いないって
話してたんです。別に自慢してたんじゃない。お父さんがいないのはすごく嫌だ。
なんか間違うと、すぐにそのせいにされるもん。なんか、痛いとこつかれたって
気持がします。
でも、ぼく、宮田くんと三角定規で決闘してて、とんがった角度のところが手に
当たって、すげえ痛かった。でも、その時、ひらめいたんです。
同じなんです。お父さんがいないって思うために心が痛いってのと。


先生、三角形の三つの角を足すと180度になるでしょ。まっすぐです。
痛い角が三つ集まるとまっすぐになれるんです。
六つ集まったら、360度になるんだ。まん丸です。もう痛い角は失くなってしまう
んです。ぼくとか赤間さんとかは、もう一個目の角を持ってるんだ。
他の人よか早く、まっすぐやまん丸になれるんです。
まん丸ってすごいですよ。だって、地球は本当は丸いんだぜ」



山田詠美『ぼくは勉強ができない』より



小さいときの苦労は本人が選んだものじゃないことが多い。
理不尽やなあと思うこともあるけど、そういうのは
いつか自分の人格を豊かにしていく為のものなんかもしれない。
主人公の秀美くんは賢いなー。
勉強できないけどもてるそうです。さもありなんって感じですね。